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パウエル議長のQTの話

ここにきて米国株は大崩れとなっている。この下げは、基本的にはFedの金融政策の引き締めと、それに伴う債券金利上昇によるものだと言われているが、債券価格の下落は主にQT(量的引き締め)が議題に上ってきたことが大きい。利上げをしても、Fedが保有資産規模を維持していれば、サイドブレーキをかけながらアクセルを踏むようなものであり、利上げのインパクトは限られる。

昨年12月当初は、テーパーの完了が今年の6月、それから小幅に利上げしつつ、年内にQTが発表されるかどうか、というのが大方の見方だったところが、現在ではテーパーの完了は3月で確定しており、同時に利上げ開始(おまけに久々の50bpの一気上げという予想もある)とみられ、そして同時にQTのスケジュールも発表という予想まで出ている(一部では月間1,000億ドル規模という予想まで出ていた)。ということで、批判的な向きからは、パウエル議長は昨年11月頃まで眠りこけてて、目が覚めたらインフレであわてて突然アクセルを床まで踏み込んだ高齢者ドライバーのように言われている。お気の毒なことである。

肝心のQTに関しては、1月のFOMC会合後、通常の声明の他に特別の声明が出されている。そこではQTに関して、実施は「利上げ開始の後」に始まり、「主として、元本償還の再投資額の調整により、時間をかけて、予見可能な形で」行われ、「金融政策を効果的、効率的に実施する上で必要な額の債券保有を維持し」、長期的には「主として国債のみを保有」し、「経済・金融状況の進展に照らしてアプローチの詳細を調整」する用意がある、とされている。

恐怖されていた、債券のアウトライトでの売却ではなく、再投資の調整を通じた債券ポートフォリオの時間をかけた自然なランオフ(に見える)ということで、これは朗報と言える。しかし前回はテーパーの話だけでテーパー癇癪が起こったくらいであり、利上げを開始してからQTを始めるまで2年間も待ったことを考えると、現在は金融システムが当時と比較にならないくらいに健全でインフレ率も高いとは言え、テーパー、利上げ、QTの3連打は、それなりのインパクトがある。

パウエル議長は確信犯的なビハインド・ザ・カーブであり、また本当のデータ・ベースドである。データ・ベースドと言っても、雁の乱れから敵軍の位置を知るみたいな、一昔前の曲芸師議長や天才議長の手品ではなく、怖いお兄さんが玄関を蹴破って入ってきて、借用書を目の前に突き付けられて逃げようがなくなってからやっと動くという意味である。そういう意味でクリアだ。

パウエル議長のこれまでの声明から、利上げはインフレ対応、QE/QTは労働市場対応、というように理解していたので、昨年末のQTの議題の突然の登場は非常に意外で驚いた。就業者数は依然としてパンデミック以前の水準に達していないため、データ・ベースドな観点からいえばQTはまだまだのはずだ。議会の公聴会でインフレ問題で丸焼きにされるのが嫌だったのか、あるいはFedが労働市場について一般ではあまり知られていないデータを察知したのかのいずれかだと思う。

たとえば、IRSの統計(EINの申請件数)によると、昨年は起業数が爆発的に増加している(通常は月間20万件程度なのが、昨年は多い月には55万件程度にまで増えている)。これは通常の雇用統計にはあらわれない数字なので、労働市場はヘッドラインの数字以上に引き締まっている可能性もある(したがってQTは正当化される)。政治的理由にせよ、データにせよ、パウエル議長は簡単には動かないと思う。

現状は、コワいインフレお兄さんが居座ってるし、お役目もあるので、テーパーを加速して、詳細はともあれ利上げをすると言って、QTもやると発表した、というところで、実際に詳細が決まっているのはテーパーが3月に終了するということだけだ。3月のFOMCで利上げとQTについてより明瞭になるだろうが、その内容は3月までのデータ次第ということになる。データ・ベースドなので何か出るたびに株も金利もひきずられてボラティリティも高いままという可能性が高い。

世間では、インフレが手の出させない寸前まできていて、パウエル議長のアクションが遅すぎた、とする見方が多いようだ。それには同意するが、パウエル議長のアクションが遅いのは確信犯であり、同議長はインフレは「一過性」だと最近までずっと言っていたのだ。これは行動しないための方便ではなく、居眠りしてたのでもなく、労働市場などのデータから本当にそう確信していたのだろう。今もコワいお兄さんが玄関まで来てるのでそう言わないだけで、ひょっとするとそう考えているかもしれない。

トランプ時代から連邦政府は大盤振る舞いを続けており、Covid関連の補助金、バイデンの大型支出に、経済再開後の好景気と労働力不足にサプライチェーンの寸詰まり、そして超低金利にQEと、価格上昇の要因は山のようにあるが、このどれもが(おそらくは)一過性であり、すべてが過ぎ去ったあとに何がどれだけ残っているかは神のみぞ知るである。いずれにせよ、コロナの影響を含めて現在の状態はあまりに不透明であり、アグレッシブな引き締めが実施される可能性もあるが、データ次第では引き締めにある程度のブレーキがかかる可能性もある。バルチック・ドライ指数などはすでに1年前の水準におちこんでいる。

個人的には、予知能力はないので、この不透明さで丁か半かに賭けるのは賢明ではないと思っている。すでにポートフォリオは絞り込んでいるが、3月のFOMCまでは何か大きなことがない限り(これが、こういう時に限って普通はあるのだが、たとえばウクライナとか)、原則的に様子見に徹するつもりだ。将来の時間は寿命を別にすれば無限であり、今は割安ではないものを急いで買う必要はまったくない。まずは3月まで入ってくるデータを見るべきだろうと思う(すごいふつ~。読んだ人ごめん)。

Published in株式経済

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