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ロシアの話

またプーチンが大騒ぎを起こしているが、時々仕事のついでにロシア株について聞かれることがある。個人的にはインデックスに組み込まれているもの以外、現政権の間はロシアには(中国もだが)投資する気はないが、単にお金儲けを考えてる人や、世代単位または100年単位の投資を考えている不老不死の人には悪くないと思う(もちろん、今の騒ぎの間はおすすめできないが)。

ロシアのMVIS指数の最近の動きを見ると、原油・ガス価格の高騰もあって昨年11月までは好調だったが、米ワシントンポスト紙がウクライナ国境へのロシア軍の集結の動きを報じた後はリスク回避の動きで急落し直近は昨年の高値から20%強下げた934.46となっている。

ロシアMVIS指数

ここで、資源高のプラスと、有事の場合の米国等による制裁のマイナスが拮抗してるのだろうが、米国が言っているイランや北朝鮮と同レベルの制裁なら、この程度では済まないだろう。市場は(そして、プーチンも)米国がクリミア併合の際の制裁に毛が生えた程度の制裁しかできないと読んでいるのはないだろうか。クリミアの制裁でロシアが受けた打撃はGDPの1.0-1.5%と推定されているが、クリミアにGDPの1.0-1.5%を犠牲にして平気な独裁者である。ウクライナを屈服させ、ロシアの最も重要な影響圏を回復して政権を維持し、歴史に名を残すのであればそれが倍でも平気であろう。有事の際に大幅に株価が下げることがあれば、そして制裁が市場とプーチンの読み通り、通り一遍のものであれば、資源高のトレンドもあり、ポジションを取りたい向きが出てくるだろう。

ロシア軍が電撃的に東部ウクライナに進出し、ウクライナがロシアの条件を飲まざるを得なくなるような状況になれば、これはプーチンとその取り巻きだけが一人勝ちで、ウクライナ、ロシア両国にとっては大不幸であり、バイデンもアウトだろう。バイデンとブリンケンが頼りのない同盟国との調整ごっこをやめ、単独ででも、あるいはならず者の英国や半分当事者の東欧諸国との共同でも、かなり強い姿勢を示さない限り(フランスもドイツも意見を聞かれれば文句を言っても、米国が本気で迫ればノーとは言えない)非常に悪い結果になる可能性がある。バイデンはコロナや中間選挙を考え、結局大事を避けるためウクライナに大幅な妥協を迫る可能性もある。いずれにせよ、バイデンがよほど頑張らないと、現況はプーチンに有利なようにみえる。

プーチンがここ数年やっていることは、簡単に言うとロシア版「日本を取り戻す」であり(正確にはその逆だろうが)、物置でほこりをかぶって眠っていた国家主義と民族主義のリバイアサンの亡霊を招魂するブードゥーである。

リバイアサンの行動原理は内外への際限のない自己増大であり、プーチンのロシアの場合、それは内では国民の自由の抑圧であり、外では過去の大ロシア勢力圏の回復である。その存在意義は内外からの脅威に対する安全保障であり、その脅威とは内はナワリヌイやメモリアルをはじめとした「外国の手先」、外は米国とNATO諸国などロシアの資源を狙う(と当局が宣伝している)西側諸国となる。

まあ、大日本帝国の創作したABCD攻囲網みたいなものであり、生命線の満蒙(ウクライナ)から手を引けと言われて怒っているようなものだが、違うのはロシアにとってのウクライナは、大日本帝国にとっての満州よりも歴史的にはるかに深い意味を持っていることと、ルーズベルトが戦うつもりだったのに対してバイデンにはその用意はない(ように見える)ことだ。

リバイアサンにとっては、選挙も資本主義もすべてが自己の増殖の手段であるから、選挙は自分に都合のよいものが勝つ八百長、資本主義は自分のためになるセクターや企業が栄えるクローニー資本主義になる。これでは、ジム・ロジャースやマーク・ファーバーが何を言っても、個人的にはとても倫理的な理由から投資する気にはならない。

ここまで長々と書いてきて、それでは100年単位で何がええねん!と怒る向きもあると思うが、プーチンも不死ではないというのがまず1つ目である。次が良くなるという保証はまったくないが、ここまで強力かつワルでアホなリーダーを探すのは難しい。中国共産党よりも、プーチンの場合は一人商店という色彩が強い(メドベージェフが大統領やってた時に、ヒラリー・キャメロン・サルコジの不良トリオが国連決議を盾にリビアの制空権を握りカダフィーを倒したことを思い起こされたい。プーチンは非常に不機嫌であった)。

ロシアと言えば天然資源だが、人的資源の質においても非常に優れている。一般人の教育水準はOECDで1~2を争うレベルであり、宇宙開発やワクチンの開発でもそれは示されている。国とそのクローニーの歪んだ資源配分がなくなれば、テクノロジー産業大国となる可能性が十分にある(実際、カスペルスキーやVKなどが登場しだした当初は業界全体が少し熱気を帯びていた)。芸術分野でもすばらしく、リバイアサンのためのくだらんプロパガンダの必要がなくなれば大きなソフトパワーを発揮するだろう。

そして、何よりも、これは中国についても言えることだが、現在のメディア・カバレッジが異常にネガティブに偏っているということがある。これには前述のような正当な理由があるのだが、実力は実態より大幅に低く見られており、これが普通に戻るだけでも相当のアップサイドがある。BRICなどと新興国が騒がれだした当初(プーチンがまだここまでアホではなかった頃であるが)、最も有力な地域について欧州の多くのビジネスマンと議論したがロシアを挙げる人が多く見られた。

プーチンの体制が平和裡に終わる可能性は低そうである。ロシア帝国、ソ連もロクな終わり方をしていないし、ロシア人、どうも日本人と同じで自己破滅的な傾向があって、フツーの政治体制をつくる能力が完璧に欠けているのではないかと疑われる。しかし、トンデモなく無能な指導者と出鱈目な統治機構を持ちながら、ナポレオンもヒトラーも倒し、チャイコフスキーやトルストイを生んだ連中である。もうちょっとマシな体制になってナワリヌイも毒を盛られないような国になればぜひ少し投資してみたいところである。

追記:ところで、ロシアの状況については、少し古いがロシア国立研究大学経済高等学院のセルゲイ・メドベージェフ教授の「The Return of the Russian Leviathan」という軽い評論集が秀逸だ。おすすめする。

Published in政治株式経済

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